なんと、珍しいことでしょう。

またね、よろしく頼むわね。

手を取り、玄関のあがり口まで付き添って、
くれたスタッフさんに、部屋に入りかけた母、
振り返って、申しました。

いつもなら、そのまま、よっこらせと入って
しまうのに、ふと、振り返ったのです。

デイからの帰宅。

乗用車ではなく、マイクロバスに乗ってきた
母は、一番最後で、一人でした。

しかし、車を降りるとき、ご機嫌でスタッフ
さんに、

こんな大きな車に乗れて、楽しかったわぁ。

えっ、今までそんなこと、言ったことがなく、
施設を出て、帰宅が一番最後だったにもかか
わらず、楽しかった、なんて、どうしたん?


朝はいつものデイのお決まり文句から始まり
ました。

酸素飽和度を測ると、血中酸素は十分。
ただ、脈拍が103でしたので、母の言う通り、
胸が苦しかったのでしょうね。

鬼娘、それでも、もう、お迎えの時間になる
からと強引に支度をさせてしまいました。

アタシは、どこへ行くの?

どこへって、千鳥デイセンターや。

そんなところ、アタシ、行ったことないわよ。

いいんにゃ、もう、通い始めて3年。
仲良しさんも出来とるよ。

つまりは、すべてを忘れてしまって、毎回、
ご新規様になってしまうようで。


「楽しく帰宅した」ことを記憶してくれれば、
送り出しに苦労することはないのに。

以前のように、目を吊り上げて、般若の面の
ような表情をして、

行きたくないものは、行きたくない。
しんどいから、ここで寝ているのが、なんで
いけないのよ!

と言っていたのが、なくなっただけでもよし
というものでございます。

001

次のデイは、土曜日ではなく、金曜日。

楽しかったことを思い出してね、お願い。