では、お名前と生年月日を教えて下さい。

調査員から、そう言われて、母は、シャンと
して答えました。

○○ 道子、大正13年11月○○日です。


さいざんす、先日、介護認定更新の面談が
ございました。

対調査に関して相変わらずの外面ヨシコさん
ぶりを発揮。


ここはどこですか?

この質問には、明確に返答しておりました。

病院、というか、市役所でお世話してくれる
施設っていうんでしょうか。

はい、市役所がやっているわけではないです
が、ま、関わり合いはありますよね。

老人ホームと言わないのは、母なりのプライド
なのでしょうか。
おっかさん、ここは施設ってわかってるんやん。


では、お幾つになられましたか?

90歳にはなったと思うんですよね。

このところ、やっと、実際の年齢への自覚は
でてきたようでございます。

老健(介護老人保健施設)に入所したときの
面談では、42歳と答えていましたっけ。


ここまでは、認知症とは思えないような明確な
答えでした。

次に、時間、季節を聞かれると、午前中なのに
お昼過ぎと言ったり、今は3月と滅茶苦茶な答え。

母は、自分の答えが違うと察して、いきなり、
調査員に向かって申しました。

貴女の目が素敵。親に感謝よ。

ははん、おっかさん、集中力が切れてきたね。

母は集中力が切れたり、質問が分らなくなると
やたらと相手を褒め上げるのです。


ここに来るまでは、どこにいらしたのですか?

横須賀市のこの施設(特別養護老人ホーム)に
入所した経緯については母はわかりません。

そこで、アタクシが、在宅介護から大腿骨骨折で
入院、退院後、老健へお世話になり、死にかけた
ことなどを、話しておりました。

話をしている途中で、いきなり、母が割って
入りました。

この子はね、都合が悪くなると、早口で話を
するのよ。わざとなんだから。

近々の記憶がない母にしてみれば、訳が分から
ない話をされることにプライドが許さないのが
みえみえ。

更には、娘を罵倒することで母親であることを
強調していると存じます。

昔から、他人様にはそうやってきた母でござい
ますからね。


その後は、はぁ?とか、いやいや、おっかさん、
それはちゃうよと言いたくなることを連発。

その上、アタシは何でも自分で出来ると言った
ようなことも捲し立ておりました。

後で、施設のユニットリーダーさんと調査員の
面談もあるので、言いたいだけ言わせておこう
とアタクシは思いました。


ここはどこ?、私は誰?。

そんな母ではなく、認知症も環境によっては
症状が戻るのだと改めて知りました。

常時、車椅子であることで、自力歩行は出来
ない。

よって、要介護4には変わりないことでしょう。

008

調査も終わるころ、ユニットでは昼食の準備中。

リビングに戻って母に声をかけると、

あら、アナタ、来てたのね?
ところで、今日のアタシの予定は?

これから、お昼を頂くでしょ。
明日は、また、膝のお医者様に診て貰うから
ここで、お泊りなんよ。


出されたお昼ご飯を食べて、母が申しました。

まあ、美味しいわ。


その声を聞きつつ、アタクシはユニットを
出ました。