母が認知症を発症して、10年以上になります。

振り返ってみると、いつ、発症したかは定か
ではないし、第一に、本人に発病したという
自覚もありません。

後から思うに、幻覚に幻聴もありました。
もちろん、被害妄想も・・・


この寒い時期になると、思い出すことがあり
ます。

あれはまだ、母が二階の自室で寝ていたとき
のこと。

母はベットの中に入ると、寒いから掛け布団を
掛けてと言いました。

羽根布団を2枚掛けても、母は寒い寒いと言う
ので、ダウンジャケットでもいいか?と聞くと
承諾しました。

そこで、母の胸元に掛けようとしたとき、手が
滑って、ダウンジャケットが母の顔の上に・・・。

あ、勘弁や、手元が滑ってしまって。

慌てて、ダウンジャケットを取り除くと・・・。

アナタ、今、アタシを殺そうとしたわね?

そう言う母の顔は、目が吊り上っているのに、
口元が大きく横に広がり、ニタリとしていました。

まるで、般若の面というか、口裂け女かという
この世のものではない表情でした。


えっ?!、手元が滑っただけで、殺そうだなんて。

このことがあってから、例えば、入浴の際に
手桶でお湯をかけたとき、

ヤダ!、顔に水がかかったじゃないっ!
そんなにアタシが憎いのね?

この人は、あたしの母親ではない。違う人だ!

絶望感と孤独感と、感情はグチャグチャでした。


おっかさん、アータは悪魔か・・・。

それから、しばらく、こういう母が続きました。
今も、思い出すとゾッとします。

002

誰にも相談出来ず、悲しかった。

押し入れの布団のなかに、頭を突っ込んで
大声で叫び、泣きました。

真っ暗なトンネル、何の光も見えない、先も
見えない。いつ、終わるのかもわからない。


認知症が進行すると同時に、症状も消えていき、
次第に、穏やかになっていきました。